平成18年度 春期研修会 講演




「世界の貧困問題を日本の食から考える」
   藤女子大学人間生活学部教授 箱山 富美子


「生活習慣と歯科疾患の関連」
   北海道大学大学院 口腔健康科講座 助教授 本多 丘人









  「世界の貧困問題を日本の食から考える」

藤女子大学人間生活学部教授 箱山 富美子


 世界人口約64億人中の栄養失調人口は約8億人(12.5%)であり、1日2万4千人が飢餓で死亡している。先進国の過剰栄養と途上国の低栄養が混在している状況である。

 世界食料機関等のプロジェクトでは栄養状況や就学率を上げるため「学校給食」を計画するが、将来に渡り地元が継続していけるか?という問題がある。
 砂漠地帯のスーダン、モーリタニアは掘っ立て小屋での生活であり、燃料はなけなしの資源である「薪」である(夜間は気温低下する)。
 エチオピアの80〜100年前は国土の殆どが森林であったが、木材を炭にして換金する森林破壊が進み、現在は2%位までに減少。

 途上国は人間が今までに克服してきた「自分の生きる場所」を見直している。核家族の安全→地域社会の安全→国家の安全等についてアイディンティティを持っている。

 食糧のグローバル化の例として

  (※ NHKテレビで4月から始まった「地球データマップ」参照)

 「さとうきび」は砂糖に加工する他に、燃料に加工され利用されている。
 「とうもろこし」は食用や加工の他に、家畜の飼料や援助物資(余剰分)として利用。
  人間の基本的なエネルギー源である穀物は64億の人口をまかなえる以上の生産量があるにもかかわらず、栄養失調人口の存在を解決できていない(食料分配の不平等)。
 主に先進国が消費している牛肉1Kgの生産に穀物8Kgが消費されるなど、食糧としての利用以外に大量に消費されている現状がある。

 人間活動により消費される資源量を分析・評価する手法の一つに「エコロジカル・フット・プリント」がある。
 これは一人の人間が持続可能な生活を送るのに必要な生産可能な土地面積(水産資源の利用を含めて計算する場合は陸水面積となる)として表される。

 例えば、あるエコロジカル・フット・プリントでは
(1) 化石燃料の消費によって排出されるCO2を吸収するために必要な森林面積
(2) 道路、建築物等に使われる土地面積
(3) 食糧の生産に必要な土地面積
(4) 紙・木材等の生産に必要な土地面積
以上の四つを合計した値として計算される。

 人間一人が必要とする生産可能な土地面積は
      アメリカ    9.5ha/人
      日本      4.3ha/人
      インド     0.4ha/人
      世界平均    1.8ha/人
となり、先進国の資源過剰消費の実態を示すものである。

 世界中の人々が日本人のような暮らしを始めたら、地球が2.4個(4.3÷1.8)必要。
つまり、日本人は現在の経済(消費)活動のスケールを1/2以下に戻す事が求められている。

 これは人間が地球環境に及ぼす影響の大きさと見ることもできることから、エコロジカル・フット・プリント→つまり「地球の自然生態系を人間が踏みつけた足跡(またはその大きさ)」と呼んでいる。



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「生活習慣と歯科疾患の関連」

北海道大学大学院 口腔健康科講座 助教授 本多 丘人


 ”健康日本21”では(1)栄養・食生活 (2)身体活動・運動 (3)休養・こころの健康づくり (4)タバコ (5)アルコール (6)歯の健康 (7)糖尿病 (8)循環器病 (9)がん を重点九項目としている。

 生活習慣としては、食習慣、休養(睡眠)、運動、喫煙、飲食など。
 歯科疾患としては、むし歯、歯周病、不正咬合、口臭、口内炎、顎関節症などがあげられる。

 たとえば生活習慣は歯周病の病因として重要であり、重症の歯周病は生活習慣(食習慣など)に影響を与える。

 80歳になっても20本の自分の歯を持っていると大体のものは食べられるということで「八○ニ○運動」を行っている。

 抜歯の原因としては、むし歯と歯周病があげられる。

 むし歯とは口中の細菌が作り出す「酸」によって歯が溶解し(脱灰され)穴があき崩壊する病気で、生命には関係しないがQOLに関係し、若年者に好発する。
地域差は都会に少なく、性差では女性に多い。

 むし歯の原因としては歯垢が問題となり、口内の細菌が歯の表面や周囲で増殖したものである。歯垢は歯の表面にべったりとついていて、歯を磨いてもとれにくい奥歯のみぞ、歯と歯の間、歯の根元はむし歯になりやすい。

 歯垢が常に付着し厚く堆積すると歯周炎になる。歯周炎は腫脹、発赤のみで炎症が歯肉に限局されているものをいい、炎症が歯周組織に拡大したものを歯周病という。

 歯周病の最大のリスクファクターは、長期間付着している歯垢であり、促進因子としてソフトフード、歯石、不正咬合などであり、生体側因子として全身の衰弱、循環障害、歯ぎしりなどがあげられる。  成人に多発し、自覚症状が出るまでに数十年かかり、歯垢の量と強い相関関係を持ち、永久歯喪失の最も重要な原因となっている。

 ヒトは歯がなくても生きていける。それは多くの調理操作(切る、砕く、挽くなど)をし食物を加工することで美味しく食べられる生物である。噛まなくても済むようなソフトフードによりいっそう歯垢、歯石が付着し、歯周病にかかりやすい状況になっている。
 生活習慣要因が歯周病に及ぼすリスクとしては、加齢、喫煙、男性、飲酒、肥満、歯みがき回数が少ないなどがあげられる。

 予防として(1)健康的な生活 (2)歯間清掃用具を使った丁寧な歯みがき (3)禁煙 (4)定期受診 があげられる。
 「一口三十回」を目標によく噛んで食べることが大切で、「噛むことが必要な食品」も意識して食べ、食品のテクスチャーを楽しむことも豊かな食生活には重要になる。

 むし歯も歯周病も早期発見、早期治療が大切なので定期検診が必要である。

 身体も歯にも共通して言えるのは「使われないから悪くなる、悪くなったら使えない」ことをもとに「歯と身体の健康」に気をつける心がけが大切である。



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