平成19年度 秋期研修会   



『 咽喉頭疾患の基礎と臨床 』

札幌医科大学耳鼻咽喉科学教室
助教    郷  充

〜テーマ〜

(1)嚥下のしくみとリハビリ
(2)花粉症・口腔アレルギー症候群

(1)嚥下について

摂食・嚥下障害に対応するためにはまず、正確な診断が必要です。 患者の病歴、診察を通して「先行期」「準備期」「口腔期」「咽頭期」「食道期」のどこに、 どの程度の問題があるのかを把握した後、初めてゴールの設定やそこに至るまでの訓練計画が立てられるのです。
 

 「嚥下障害をきたす疾患」

口腔咽頭疾患、食道疾患、中枢神経系(脳血管疾患・パーキンソン病、ALS、など)
末梢神経系(筋ジストロフィー症、重症筋無力症など)
 

 「耳鼻咽喉科としてのアプローチ」

  1. 評価には現状評価・音声状態・口腔内所見・脳神経症状 内視鏡検査・嚥下造影検査など行います。
    ここで注意したいのは「むせる」=誤嚥ではない!ということ。
    本当に困るのは「むせ」のない誤嚥であるということです。
  2. 治療には間接訓練と直接訓練があります。
    @の評価後、間接訓練は食物を用いずに筋力や筋持久力、 可動性、協調性、嚥下パターンを学習するもので、直接訓練は姿勢や 食物形態を工夫しながら段階的に食物摂取をすすめていくという方法です。
    危険を伴い意識障害や全身・局所状態に十分注意を払いながら慎重にすすめていく必要があります。
    訓練・管理に際して誤嚥・認知障害・心因性要因・介護者のマンパワー不足などから完全な改善は少なく、軽度改善、あるいは医学的に安定した状態での現状維持が多いのが現実です。高度嚥下障害の最終手段には外科的治療も確立されています。

(2)花粉症・口腔アレルギー症候群について(OAS)

花粉症は地域によって原因花粉が異なります。北海道の場合はスギ花粉よりもシラカバ花粉 が圧倒的に多く、ゴールデンウィークの前後から始まります。

< 症 状 > 特定の果物や野菜を摂取した数分後に唇、口の中やのどがかゆくなったり、腫れたりします。重症になるとアナフィラキシーショックを招くこともあります。
<原因抗原> バラ科果物のりんご、さくらんぼ、もも、それ以外ではキウィ、メロン、バナナ。北欧ではヘーゼルナッツによる重篤な例が報告されています。
< 診 断 > 問診が中心となり、検査はCAP-RASTと呼ばれる血液検査。
りんごのOASの場合、シラカバ花粉CAPは他の果物より陽性率が高いことが認められています。 なお、日本では経口の誘発検査は通常行われません。
< 対 策 > @ 原因の果物、食物を食べるのを避けることが最も良い方法です。
北海道と同じシラカバ花粉症の多い北欧では減感作療法を行っても花粉症自体は改善するが食物の症状は治療前と有意の差はなかったという報告があります。日本では、保険適応が認められたシラカバ花粉の注射のエキスがありません。
A 熱や消化酵素に不安定なものが多いので加熱調理をするとよいでしょう。
< 対 処 > 多くの人は原因食物の自覚があり、食べるのを避けていますが、誤って口に入れてしまった場合、本人が口から外に出してしまう場合が多いです。
また、2〜3時間で症状が消える軽い場合はそのまま様子を見ますが、症状に 応じて抗ヒスタミン剤、ステロイド、気管支拡張剤の投与を考慮します。
< 予 後 > 原因となる食べ物を避ければ良好です。
小児アレルギー(卵・牛乳)のように年齢とともに寛解していくものと異なり、 花粉症と同様にいったん発症すると自然寛解するのは少ないと考えられます。

    講演の様子