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栄養士のつぶやきNo.72|病棟の窓辺からナラティブを考える

帯広第一病院 木村千恵里

勤務先に道東初の緩和ケア病棟が開設されて一年余り経ちました。改築でできあがったそこは日高山脈の美しい景観と向かい合っており、365日季節ごとの表情を見せてくれる素敵なロケーション。そんな光景を見ながら患者様とお話していると農業を営んでいたという方の多いこと。さすが農業王国十勝です。春は桜が咲いたら一斉に農家は忙しくなること、山脈が新緑のコントラストで美しい頃は日の長い夏であり、朝から晩まで長時間働いたこと。紅葉の季節になると霜や雪が舞い降りるまでに急いで収穫の仕事を終わらせたこと…冬が到来して山並みに真っ白な雪に包まれると、家に残した家族の雪かきの心配が昔と現実が交差し、ものがたりとしての想いを伝えてくれます。

お話は農家だからこそ作って食べたという時代の味の話に波及します。ある年配の女性は昔食べた“でんぷんかき”が食べたいと。そこからお話しされる幼少期の想い出。ご本人は昔の事だとおっしゃるのですが私にはその思い出話の情景の輝きが想像できます。
「薪ストーブの上に出来上がったでんぷんかきを乗せて焼いて食べたのよ。おいしかったわ。」「何もおやつが無かった頃のお話よ。」と・・・苦労された時代のお話には心が詰まります。
別の患者様は酪農家さん。今は後継者の子供さんが乳製品の加工も手掛けていると。「ヨーグルト、もっと食べなきゃいかんよ。」と。他にも野菜作りの農家さん、畑作専業の農家さん。自身の作った野菜類で主に煮物を作って食べていたと、すすめてくださる「ささげ」の煮物は美味しいお母さんの味でした。
私達の周りにはお店や飲食店で食べる「美味しいもの」があふれています、もちろんそれも「美味しいもの」に違いないですが、患者様のお話ししてくれる「美味しかった」と似て非なるものなのかなと思います。

でんぷんかきさて、今はスタッフの栄養士として「美味しさ」の再現に挑んでいます。つい最近は前述した昔懐かしい“でんぷんかき”です。ストーブが無いのでまずは焼く前までを。でんぷんは馬鈴薯でんぷんです。カレースプーン軽く1杯と砂糖(お好みで)を加えて2倍の水を加えて溶きます。やかんにお湯を沸かし沸騰させたものを、少しずつでんぷんを溶かしたものに混ぜながら加えていきます。しっかり混ぜて透明になれば出来上がりです。とろりとした優しい食感が口の中に広がったとき、患者様は素敵な笑顔を返してくださいます。

話はもどり緩和ケア病棟の日高山脈の光景から…山脈から吹いてくる冷たい風は「日高おろしの風」と呼ばれますが断熱加工の施された窓ガラスはそんな寒さから患者様をしっかり守り温かい優しい日差しだけをとりこみ、穏やかに過ぎて行きます。ここでもう少し患者様の「食べたい」を支える事ができる栄養士になれる様、学んでいこうと思います。


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